白井 聡 氏 講演録/鳥の演劇祭8

2015/09/22

鳥の劇場・ホワイエ

 

講演を聴いてきたので、その概要を以下に記す。

もちろん文責はわたくし。

 
(はじめに)
・永続敗戦という本を著したが、何故、70年も経っているのにこの課題に付き合わなくてはいけないのかと思う
・戦後の復興、経済成長によってそのことを上手に誤魔化しながら生きてきた70年間であったが、約20年くらい前からこのトレンドは失われ、国の在り方に方向性を欠いたまま今に至っている
・そして、現政権には、そうした「誤魔化し」の進化、純化、定着を進めようとする病的な傾向がある
(著述の動機)
・直接の動機は「3.11」
・海水の注入を思いとどまらせようとする東電本社エリートの発言に代表されるように、この国は「壊れている」という事実が原発事故によって露呈した
・これでは丸山眞男の指摘した「無責任の体系」と同じ、日本のすべてがそうなっている、実はスカスカだったんだ、という驚きに包まれた
・無責任の体系とは、システムを生み出した本来の目的を見失い、システム自身の自己保全にすべての資源を注ぐという外見的な行動パターンを示すもので、15年戦争末期の国体護持の優越、公的認定の国家独占など、独善的で民主主義のかけらもない思考様式
・「3.11」でこの国を覆う「無責任の体系」がもたらす行動様式が露わになり、国家意志を優先しようとする勢力の地金が現れたが、「それがどうした」と開き直る一派が登場し、現政権の支持母体となっている
(先行して芽生えていた問題意識)
・加えてその背景には、鳩山首相退陣に至るプロセスにおいて露わとなった、米国との合意が国民の民意に優先してしまう、すなわち米国に「敗けている」という事実認識があった
・更に、その「敗けている」という事実を覆い隠すかのように、問題の核心に迫ることなく鳩山の個人的資質を攻撃し、論点をそらし、矮小化させるようなメディアの論調
・これは「敗戦⇒終戦」の読み替えによって敗戦をごまかした、70年前と同じパターンではないかという既視感に包まれた
(戦後体制の中心軸)
・「敗戦の否認」。敗戦を現実として認めず、曖昧のままにおき、すべての責任を不問にした米国による旧支配層の活用のためのプロパガンダで、敗戦を契機とした日本人自身に手による自らの国の自己変革の機会を抹殺した
・「敗戦」を否認し続けるため、米国に延々と負け続ける(=永続敗戦)という現象が出来することになる
(対米従属)
・本来、たとえ従属関係であっても、国家間の関係である限りそればビジネスライク、五分五分、ギブアンドテイクの関係であるはずだが、日米関係はそうしたものではなく、環境、条件、前提が変わってもその状況に変化はないという特殊なもの
・そればかりではなく、「米国は日本を愛しているはず」という「温情主義の妄想」に基づいて、ただ一途に従属している
・免責を受けた旧支配層の恩返しに始まって、政財界、マスコミを問わず、いまやそのこと自体が目的化しているが、さすがに精神的な負担感はあるようで、この一方的な従属によって生じるストレスは、アジア諸国を発散の場として位置づけることになる
(従属強化のスパイラル)
・アジア諸国に対する優越的な姿勢を示し続けることは、米国に盲従することによって獲得する米国との強い紐帯を背景として初めて可能となるものである
・こうした傾向は、アジア、特に東アジアにおける日本の孤立を生み、そのことが一層対米従属を促進させることとなる
(永続敗戦を可能とした前提条件の変化)
・こうした「永続敗戦」は、①冷戦構造という国際環境、②東アジアにおける経済的な突出、の2点を前提条件として成立していた
・冷戦構造は、米国にとって東アジアにおける日本の地勢的な重要性を高め、東アジアにおける経済的な優越は東アジア諸国に対するストレスの発散を容易にしたからである
・しかしこの2点は、1990年頃に消滅し、冷戦の終結による米国から見た日本の重要性の低下、経済的な成長を背景とした中韓からの反発という新たな環境がもたらされることとなった
(失われた30年)
・以来約30年日本は国是を失い、あたかも柱のない家のような状況におかれているといってよく、経済的のみならず、政治的にも「失われた30年」であったと評価できる
・現政権は、ひたすら「永続敗戦」を求め、冷戦構造と経済的優位という失われた前提条件の代わりとして、精神的な対米従属の純化をその位置に置こうとしている
中韓へ真摯に向き合おうとしない口先ばかりの平和主義と、歴史認識を修正し憲法を改正し戦争のできる国への志向
・これらは対米従属のスパイラルを一層純化させることになる。
(現政権と彼らを支持する層とは)
・自らが置かれた困難な状況を「所与」のものとして正面から受け止めきれずに“キレて”しまった人たちのマインドセットに他ならない
・困難な状況に対応することができずに無能を立証されたにもかかわらず、いまの権力にしがみ付こうとしている人たちが居直って、開き直っている勢力
・また、彼らを支持する社会的勢力も、現代社会の諸困難に正面から向き合わず、それらをなかったことに、見えなかったことにして正面から取り組まず、責任も引き受けず自己保身や現状維持に走ろうとする人たちから構成されている
(なすべきこと)
・現在の非常に悪い状況を正しく知り、正しく絶望し、そこから第一歩を記すこと
・手を付けずに目を背けて置き去りにしてきたことを、一つずつ手掛け、取り組んでゆくしかない

質疑応答
Q:対米従属からの脱却は可能なのか
A:対米従属は、現実的な問題としては「仕方のない」ことだと認識。ただし、現在のような特殊な対米従属の関係からの脱却は可能。天皇の上に、政府の上にワシントンがあるといった対米盲従、米国は日本を愛しているという「温情主義の妄想」から脱却し、ビジネスライクな従属関係に立ち戻るべき。それこそが「普通の国」のはず。